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受け入れ企業の実務

技能実習生の失踪はなぜ2年で6割減ったのか|数字と、失踪で企業・監理団体・送出機関が失うもの

失踪の話は「増えている」という前提で語られがちですが、公表されている数字は逆でした。ピークの令和5年から2年で6割減。背景には、失踪が起きると受け入れ企業・監理団体・送出機関の3者が同時に不利益を負うという制度の組み替えがあります。数字と、その裏側の規定を条文まで並べて整理します。

まず要点だけ 令和7年の失踪者数は3,950人(速報値)。ピークの令和5年(9,753人)から2年で6割減、実習生100人あたりでは2.6人→0.9人です。減った理由は現場の努力だけではありません。会社側に責めに帰すべき事由がある失踪を出すと、技能実習計画が1年間認定されず、特定技能の受け入れもできなくなります(優良の点数は−50点)。監理団体は優良から外れ、送出機関は認定リストから削除されます。加えて失踪先の摘発来日前の借金を減らす方向の規制が重なりました。

① 令和7年は3,950人。2年で6割減った

出入国在留管理庁が公表している技能実習生の失踪者数(速報値)です。令和8年7月に令和7年分まで更新されました。

技能実習生の失踪者数(暦年)

目盛りは0〜12,000人/令和7年は前年比 −39.3%

7,167 9,006 9,753 6,510 3,950
令和3年令和4年令和5年令和6年令和7年

出典:出入国在留管理庁「国籍別の失踪者数(令和3年~令和7年)」(令和8年7月・速報値)

令和4年・令和5年と過去最多を更新し続けたあと、令和6年に −33.3%、令和7年に −39.3% と2年続けて大きく減っています

② 「失踪者数」が数えているもの

この数字は「行方不明のまま見つかっていない人の数」ではありません。数え方を先に押さえておくと、あとの数字の意味が変わります。

集計の元は「技能実習実施困難時届出書」 監理団体などが外国人技能実習機構へ提出する技能実習実施困難時届出書のうち、「行方不明」を理由とするものを集計した数字です。届出のあと、退去強制手続などで入管庁が所在を把握している人も含まれます。そのため入管庁は、3か月以内に所在を確認できた人を除いた数も並べて公表しています(令和7年=3,950人のうち、除いた数は2,881人)。

③ 実習生は増えている。率で見ると3分の1

人数だけを見ると分母の変化が見えません。同じ5年で、在留している技能実習生は6割以上増えています。

在留している技能実習生の数(各年末時点)

目盛りは0〜550,000人

276,123 324,940 404,556 456,595 456,618
令和3年末令和4年末令和5年末令和6年末令和7年末

実習生100人あたりの失踪者数

その年の失踪者数 ÷ その年末の在留技能実習生数/目盛りは0〜3.3人

2.6人 2.8人 2.4人 1.4人 0.9人
令和3年令和4年令和5年令和6年令和7年

出典:出入国在留管理庁「国籍別の失踪者数」「職種・作業別 在留資格『技能実習』に係る在留者数」/失踪者数は暦年、在留者数は各年末時点のため、厳密な同一母集団ではありません

100人あたり2.8人(令和4年)から0.9人(令和7年)へ。人数の減り方(6割減)よりも、率の下がり方(約3分の1)のほうが大きくなっています。

④ 3人に2人がベトナム。割合はむしろ上がった

国籍別の失踪者数(令和7年)

合計3,950人/「その他」はバングラデシュ・スリランカ・ウズベキスタン・タイほか

ベトナム2,593人

インドネシア444人

ミャンマー398人

カンボジア195人

中国137人

フィリピン58人

その他125人

ベトナムが占める割合

上=令和5年(9,753人)/下=令和7年(3,950人)

ベトナム 56.2%その他 43.8%
ベトナム 65.6%その他 34.4%

出典:出入国在留管理庁「国籍別の失踪者数(令和3年~令和7年)」(速報値)

ベトナムは5,481人(令和5年)→2,593人(令和7年)と半分以下に減っていますが、他国の減り方がそれ以上に大きかったため、全体に占める割合は上がりました。中国は −59.1%、タイは −54.1% と、令和7年の減り方が特に大きい国もあります。

⑤ ミャンマーの急減と、2024年10月の分岐点

全体の減少をいちばん動かしたのがミャンマーです。令和5年に1,765人まで増え、令和7年は398人(−68.5%)でした。

ミャンマー国籍の失踪者数

目盛りは0〜2,100人

447 607 1,765 1,263 398
令和3年令和4年令和5年令和6年令和7年

出典:出入国在留管理庁「国籍別の失踪者数(令和3年~令和7年)」(速報値)

この国の数字は、②で触れた「3か月以内に所在を確認できた人を除いた数」と並べると見え方が変わります。

失踪者数3か月以内に所在を確認できた人を除いた数
令和3年447人108人
令和4年607人35人
令和5年1,765人5人
令和6年1,263人56人
令和7年398人10人

令和5年は1,765人の届出に対し、3か月以内に所在が確認できなかったのは5人。ほとんどの人が、そのあと手続の中で所在を把握されていたことになります。同じ「失踪」という言葉でも、中身は国によってかなり違います。

2024年10月1日から、技能実習中のミャンマー人の取扱いが変わった ミャンマーでは2021年2月のクーデター以降、情勢不安を理由に在留を希望する人に緊急避難措置として在留・就労が認められています。入管庁は、この措置が誤用・濫用的に利用されている事例が見られたことを踏まえ、2024年10月1日以降、「技能実習」で在留する人が技能実習を修了しないまま「特定活動」への在留資格変更を希望する場合の取扱いを変更しました。現在は、自己の責めに帰すべき事情によらずに実習の継続が困難となり、監理団体等が実習先変更の措置を講じてもなお新たな実習先を確保できなかった場合に申請できる、という整理です。
出典:出入国在留管理庁「本国情勢を踏まえた在留ミャンマー人への緊急避難措置」

⑥ 職種別=半分が建設、最多は「とび」

建設関係が占める割合(令和7年)

建設関係2,167人/合計3,950人

建設関係 54.9%そのほか 45.1%

職種別の失踪者数 上位10(令和7年)

職種は技能実習の職種区分

とび759人

建設機械施工387人

型枠施工233人

溶接204人

鉄筋施工182人

塗装170人

婦人子供服製造114人

内装仕上げ施工111人

そう菜製造業104人

防水施工93人

出典:出入国在留管理庁「職種別の失踪者数(令和3年~令和7年)」(速報値)

ただし、この順位はその職種で働いている実習生の数に強く引きずられます。とびは在留者数も32,887人と最多です。

⑦ 率で見ると、職種で20倍以上の差がある

そこで、職種ごとに「実習生100人あたり何人か」に直します。

実習生100人あたりの失踪者数(職種別・令和7年)

令和7年の失踪者数 ÷ 令和7年末の在留者数/金色=全体の平均

とび2.3人

建設機械施工1.8人

型枠施工1.7人

鉄筋施工1.7人

塗装1.1人

溶接0.9人

【全体の平均】0.9人

婦人子供服製造0.7人

そう菜製造業0.2人

介護0.1人

出典:出入国在留管理庁「職種別の失踪者数」「職種・作業別 在留資格『技能実習』に係る在留者数(令和7年末)」/失踪者数は暦年、在留者数は年末時点

とび2.3人に対して介護は0.1人と、20倍以上の差があります。建設関係全体では1.9人で、全体平均(0.9人)の約2倍です。ただしこれは職種の性質そのものではなく、その職種に多い働き方・賃金・寮の環境などが重なった結果と見るのが自然です。自社の職種の数字は、「自社がどのあたりにいるか」を測る物差しとして使うのが現実的です。

⑧ なぜ減ったのか(1)失踪は3者が同時に損をする制度になった

失踪は「実習生が1人いなくなる」だけの話ではありません。受け入れ企業・監理団体・送出機関のそれぞれに、制度上の不利益が用意されています

受け入れ企業

失踪が出ただけ優良の点数が下がる(3年で3人以上なら −10点)

責めに帰すべき事由があると技能実習計画が1年間 認定されない=新規受け入れ停止
優良は −50点特定技能も受け入れ不可

監理団体

失踪が出ただけ一般監理事業(優良)の点数が下がる

責めに帰すべき事由があると優良は −50点=実質、優良から外れる
改善命令・許可取消しの対象

送出機関

平常時二国間取決めで失踪対策に努める義務

基準に違反すると認定送出機関のリストから除外
=日本へ送れなくなる(日本側へ通報)

企業:止まるのは「責めに帰すべき事由」があるとき

技能実習法施行規則 第12条第1項第12号の2 「過去一年以内に、申請者又は監理団体の責めに帰すべき事由により技能実習生の行方不明者を発生させていないこと」

認定されなければ受け入れはできません。別会社を作っても実質的に同一の機関として扱うと運用要領に明記されています。そして、これは技能実習の中だけで終わりません。

特定技能基準省令 第2条第1項第3号 「特定技能雇用契約の締結の日前一年以内又はその締結の日以後に、…特定技能所属機関の責めに帰すべき事由により外国人の行方不明者を発生させていないこと」

運用要領は、技能実習の実習実施者として責めに帰すべき失踪を出した場合もこの基準に適合しないとしています。技能実習で失踪を出した会社は、特定技能への切り替えもできなくなるということです。

「失踪ゼロで+5点、責めのある失踪で−50点」という配点

優良な実習実施者・優良な監理団体の判定は150点満点で90点以上。失踪はここに直接効きます。

直近3年の状況点数
行方不明者ゼロ+5点
1人以下(または割合10%未満)0点
2人以下(または20%未満)−5点
3人以上(または20%以上)−10点
責めに帰すべき事由による失踪がある−50点

90点で合格の配点で−50点ですから、1件でも認定されれば優良には届きません。3号(4〜5年目)の受け入れも、人数枠の倍増も同時に消えます。

「責めに帰すべき事由」と判断される典型 報酬を適切に支払っていない劣悪な環境で業務を強制したといった事情です。失踪対策が結局「日々の労務管理をきちんとやる」に行き着くのは、ここが理由です。

なお、失踪の届出(技能実習実施困難時届出書)は団体監理型なら監理団体が機構へ提出します。運用要領は事由の発生から2週間以内とし、怠れば30万円以下の罰金の対象です。手順は 技能実習生が失踪したら?会社がやること にまとめています。

送出機関は、実際に消えている

認定送出機関の一覧は外国人技能実習機構が公表しており、「過去に認定されていた機関」も削除日つきで公開されています。ベトナムでは2023年1月に約100社がまとめて削除され、その後も削除が続いています。送出機関にとって、日本へ送れなくなることは事業の停止です。

⑨ なぜ減ったのか(2)失踪した先の働き口が塞がれてきた

失踪は、受け入れる側があって成り立ちます。ここも同時に締められました。

不法就労助長罪

現行(2026年8月時点)3年以下の拘禁刑 または 300万円以下の罰金(併科あり)

2027年4月1日から5年以下・500万円以下へ引き上げ(令和6年法律第60号)

「知らなかった」は通らない

入管法第73条の2第2項=不法就労にあたることを知らなかったことを理由に処罰を免れることはできない(過失がないときを除く)

在留カードの確認手段

失効情報照会サイトに加え、令和7年11月から読取アプリでも失効照会が可能に。令和8年6月14日から新様式の在留カードを交付

摘発は続いている

不法就労助長事犯の検挙は令和7年で263件・310人(うち日本人200人)=警察庁

よくある誤り:「不法就労助長罪はもう5年・500万円になった」 そう書いているWeb記事が多数ありますが、2026年8月時点の現行法はまだ3年以下・300万円以下です。5年以下・500万円以下は2027年4月1日施行の未施行規定(令和6年6月21日公布)。社内や取引先に説明するときは、時期を分けて伝えるのが安全です。

失踪が減る一方で、在留資格の取消しは増えています。「見つかって取り消されている」動きが数字に出ています。

在留資格「技能実習」の在留資格取消件数

目盛りは0〜1,200件/令和7年の取消し総数1,446件のうち973件(67.3%)が技能実習

585件 901件 983件 710件 973件
令和3年令和4年令和5年令和6年令和7年

出典:出入国在留管理庁「令和7年の『在留資格取消件数』について」(令和8年3月)

不法残留者は減っています。令和8年1月1日現在で68,488人(前年比 −8.5%)、うち技能実習は9,323人(前年から2,181人減)でした。

⑩ なぜ減ったのか(3)借金を背負わせない方向への手当て

入管庁は失踪の主な原因として「賃金等の不払いなど、実習実施者側の不適正な取扱い」「入国時に支払った費用の回収等、実習生側の経済的な事情」の2つを挙げています。後者=来日前の借金にも手が入りました。

来日前に送出機関などへ支払った費用(平均)

入管庁の実態調査(令和4年7月)/回答者全体の平均は542,311円

ベトナム688,143円

中国591,777円

カンボジア573,607円

ミャンマー287,405円

インドネシア235,343円

フィリピン94,821円

出典:出入国在留管理庁「技能実習生の支払い費用に関する実態調査」(令和4年7月26日)

約55%が借金をして来日し、その平均は547,788円(ベトナムは674,480円)。数十万円の借金は、そのまま失踪の動機になります。

ベトナムの手数料上限

法律69/2020/QH14で「12か月ごとに賃金1か月分・最大3か月分」に(2022年1月施行)

育成就労(2027年4月〜)

本人が送出機関に支払う費用は月給の2か月分まで超過分は受入れ機関・監理支援機関の負担

違約金の禁止

技能実習法第47条=不履行の違約金・損害賠償額を予定する契約は禁止(違反は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)

⑪ 数字の出どころと、次に更新される時期

数字出どころ更新のタイミング
失踪者数(国籍別・職種別・都道府県別)出入国在留管理庁「公表情報(監理団体一覧、行政処分等、失踪者数ほか)」年1回(直近は令和8年7月)
在留している技能実習生の数(職種・作業別)出入国在留管理庁「職種・作業別 在留資格『技能実習』に係る在留者数」年1回(各年末時点)
在留資格取消件数出入国在留管理庁「在留資格取消件数について」年1回(毎年3月ごろ)
不法残留者数出入国在留管理庁「本邦における不法残留者数について」年1回(1月1日現在)
認定送出機関の一覧・削除外国人技能実習機構「外国政府認定送出機関一覧」随時

失踪者数はいずれも速報値です。あとから修正されることがあります。

受け入れ企業として押さえておくこと

  1. 止まるのは「責めに帰すべき事由」があるとき:失踪が出ただけで新規受け入れが止まるわけではありません。ただし、賃金の不払いや劣悪な環境が認められると、技能実習も特定技能も1年間止まります
  2. 優良の−50点は事実上の失格:90点で合格の配点で−50点です。3号の受け入れも人数枠の倍増も同時に消えます。
  3. 差を分けるのは、あとから出せる記録:「責めに帰すべき事由があったか」は、賃金台帳・出勤簿・控除の中身・面談の記録で判断されます。起きてから作れるものではありません
  4. 自社の職種の数字を知っておく:全体平均は実習生100人あたり0.9人。建設関係は1.9人、とびは2.3人です。監理団体との面談でも、この物差しがあると話が早くなります。
  5. 2027年4月からは前提が変わる:育成就労では一定の要件のもとで本人の意向による転籍が認められ、いなくなる前に移るという経路ができます。→ 育成就労の準備

「責めに帰すべき事由はなかった」を、記録で示せますか

失踪が起きたとき、会社の側に事情があったかどうかを判断する材料は、賃金台帳・出勤簿・控除の内訳・面談の記録です。そしてそれらは、必要になってから作れるものではありません。AMSTIは外国人材の勤怠・在留・労務書類をまとめて管理するシステム。日々の出勤入力から、技能実習日誌・出勤簿・賃金台帳・有給管理簿までを1人ずつ整えられます。30日間無料(クレジットカード登録は不要)。

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