まず、なぜ辞めたいのかを聞く
「辞めたい」「国に帰りたい」という言葉は、そのままの意味とはかぎりません。本当に日本を離れたいのか、この会社が続けられないだけなのか、それとも今週がつらいだけなのか。ここを分けないまま帰国の段取りに入ると、本来は続けられた人を帰してしまいます。
会社にできること 話を聞いて時間を置く/班や寮の組み合わせを変える/母国語で相談できる先を伝える
会社にできること 給与明細を一緒に見る/寮費・光熱費の天引きを説明する/仕事量の見通しを伝える
会社がやること 引き止めではなく是正/事実関係を確認する/転籍の申出を妨げない
会社にできること 実習をやめるのか、一時帰国で済むのかを分ける/労災なら治療と補償が先/在留カードの扱いは一時帰国と本帰国で逆(帰国に進むとき)
聞き方で3つだけ
会社だけで抱えない。監理団体に相談する
団体監理型(ほとんどの受け入れ企業がこちら)なら、技能実習生からの相談に応じ、会社と本人に助言・指導その他の必要な措置を講じることは監理団体の業務の基準として定められています(技能実習法施行規則第52条第14号)。会社だけで「様子を見よう」と決めないでください。
そしてもう1つ。この相談を受けた場面は、あとから書類に残ります。
本人が申出書に書く3つ
「忙しいから後で」と流したことは、名前つきで機構に出る書類に残ります。その日のうちに監理団体へ相談して動いていれば、残るのはその記録です。
国が出している記載例が、そのまま現場の話になっている
機構が公表している対応通知書の記載例には、調査の内容として次のような文章が載っています(登場人物はすべて架空の表記です)。
- 実習生から相談を受けた社長が、「コミュニケーションの一種だと思い、特に調査をしなかった」と答えた
- あらためて確認させたところ、主任が「いつまで経っても仕事を覚えないので、ヘルメットの上から頭を叩いたことが複数回あった」と認めた
- 主任は事実を認めて反省しているが、実習生は転籍したいと言っている
- 監理団体は、調査の結果、暴力があったと認められると判断した
国が記載例に選ぶくらい、よくある形だということです。「叱っただけ」「冗談のつもり」で処理した相談が、あとから申出書の相談状況の欄になって戻ってきます。
引き止められるものと、引き止めてはいけないもの
理由が一時的なことやお金のことなら、話して直せるものを直し、続けられるようにすることに問題はありません。本人も稼ぐために日本に来ています。稼げないまま途中でやめるのは、本人にとっても不本意なことが多いからです。
本人に話すのは、本人にとっての損得だけ
途中でやめると本人が何を失うのかは、正直に説明する材料になります。数字ではなく、年数と道筋で伝わります。
| 続けると | 途中でやめると |
|---|---|
| 第1号(1年)→ 第2号(2年)→ 第3号(2年) | 積み上げてきた期間は、そこで終わる |
| 技能検定を受けて次の号へ進む | 受検の機会がなくなる。次の実習先でも同じ職種とはかぎらない |
| 第2号を良好に修了 → 特定技能1号へ | 同じ分野の特定技能1号へ移るときの試験免除という道が使えなくなることがある |
会社側に原因があるときは、引き止めが違反になります
理由が暴言・暴力・ハラスメント、賃金不払い、契約と違う仕事だったときは、説得する場面ではありません。次の4つは、そのまま不利に働きます。
後ろの2つは、申出書に「対応してくれない」と書かれる形で残ります。
会社側に原因があったときの対応
令和6年11月1日の改正で、転籍を認め得る「やむを得ない事情」となり得る事柄が技能実習制度運用要領に明記されました。それまでは「どのような場合に転籍が認められるのか分かりにくい」「主張が食い違うと手続が進まない」という指摘があった、と機構自身が書いています。
暴行や各種ハラスメント(暴言、脅迫・強要、セクハラ、マタハラ、パワハラなど)。
賃金の不払いなど。
雇用条件書と違う仕事・違う条件で働かせているなど。
会社の側が実習を続けられなくなった場合。
会社(団体監理型なら監理団体)がやることは、直ちに事実関係の確認と是正指導です。
是正したら「やむを得ない事情には当たらない」になるのか
対応通知書(第1-45号)で「連絡調整を開始しない」を選ぶときの理由の1つに、「あなたが申し出た技能実習を続けることができない事情が存在したものの、当該事情が是正されたことで、転籍を認め得るやむを得ない事情には当たらないと認められたため」という選択肢が用意されています。つまり、事実があっても是正すれば当たらないと判断する余地は制度上あります。
ただしこれは会社が一方的に決める話ではありません。判断したうえで調査の内容を具体的に書いて本人に通知するところまでが手続きです。本人が納得しなければ、機構の母国語相談窓口という経路が別にあります。
それでも続けられないときの手続き
話した結果、転籍または帰国に進むことになったときの手続きです。ここからは紙の話になります。
転籍に進むとき(申出書からの5手)
| 受け入れの形 | 申出書を受ける | 調査・是正指導 | 対応通知書 | 困難時届出書 |
|---|---|---|---|---|
| 団体監理型 | 実習実施者または監理団体(受けたら署名して原本返却) | 監理団体 | 監理団体 | 監理団体が省令様式第18号を提出。実習実施者は速やかに監理団体へ通知する |
| 企業単独型 | 実習実施者(受けたら署名して原本返却) | 実習実施者 | 実習実施者 | 実習実施者が省令様式第9号を提出 |
転籍先が決まるまでの間
どちらも、令和6年11月1日の運用改善で加わった在留管理制度上の措置です。
帰国に進むとき
まず一時帰国なのか、本帰国なのかをはっきりさせます。在留カードの扱いが逆になります。くわしくは 帰国手続きの⑤。
本帰国のときにやることです。満了で帰るときと同じ流れです。
- 決まったら帰国の意思を書面で確認。困難時届出書を遅滞なく。航空券の手配
- 出国前住民税の一括徴収・年末調整・精算・保険証の回収
- 出国当日カードとパスポートは本人が持つ
- 出国後資格喪失届・外国人雇用状況の届出・脱退一時金
詳しい手順と期限は 技能実習生の帰国 に書いています。
補足
| この記事のもとになった決まり | 内容 |
|---|---|
| 技能実習制度運用要領(令和6年11月1日改正) | 転籍を認め得る「やむを得ない事情」の明確化。参考様式第1-44号・第1-45号の新設。帰国旅費の負担と、帰国の意思を書面で確認すること |
| 技能実習法施行規則 第52条第14号 | 監理団体の業務の基準。相談に応じ、助言・指導その他の必要な措置を講じること |
| 参考様式第1-44号 | 実習先変更希望の申出書(9か国語・記載例あり) |
| 参考様式第1-45号 | 実習先変更希望の申出に係る対応通知書(9か国語・記載例あり) |
| 省令様式第18号 / 第9号 | 技能実習実施困難時届出書(団体監理型 / 企業単独型) |
- 転籍の運用改善の内容は外国人技能実習機構「やむを得ない事情がある場合の実習先変更」と、同ページのリーフレット(令和6年11月1日・監理団体/実習実施者向け)および「よくあるご質問(やむを得ない事情による転籍関係)」で確認しました(2026年9月)。申出書・対応通知書の様式と記載例、9か国語の翻訳版も同ページにあります。
- 技能実習実施困難時届出書の様式番号と提出先は同「技能実習実施困難時の届出」によります。
- 帰国後の税・社会保険の手続きは 技能実習生の帰国、特定技能への移行は 技能実習から特定技能への移行 にまとめています。
- 2027年4月1日に技能実習は育成就労に移ります。機構のよくあるご質問には、令和6年2月9日の関係閣僚会議で決定された政府方針で、育成就労制度ではやむを得ない事情による転籍の範囲を拡大・明確化し、手続を柔軟化することとされた、と書かれています。今回の運用改善は、その前倒しとして現行の技能実習制度で行われたものです。育成就労での具体的な様式と手続きは、あらためて確認が必要です。
- この記事は手順を整理したものです。個別の事案で転籍が認められるかどうかの判断は、監理団体と機構の地方事務所・支所にご確認ください。
「いつ相談を受けたか」が、あとで効いてきます。
申出書に書かれるのは、最初に相談した日と、相談した人の名前です。AMSTIは外国人材の勤怠・在留期限・労務書類をまとめて管理するシステム。日々の出勤入力と一緒に、面談や相談の記録も1人ずつ残せます。在留期限や満了日も一元化できるので、帰国・更新の準備を前もって進められます。30日間無料(クレジットカード登録は不要)。
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