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受け入れ企業の実務

「外国人を雇うと助成金72万円」は本当?

SNSで「外国人を1人雇うと72万円の助成金がもらえる」というウワサが広まっていますが、結論からいうと、そんな制度はありません(報道で厚生労働省も「そのような制度は存在しない」とコメントしています)。ただし、その数字の“火元”になった本物の助成金はあり、外国人を雇う会社が実際に使えるものもあります。何がウソで何がホントか、技能実習・特定技能で使える/使えないまで含めて整理しました。

外国人を雇うだけで会社に72万円が入るという制度は存在せず、報道で厚生労働省も存在しないとコメントしている。実在するのは、働きやすい環境を整えた事業主に助成する人材確保等支援助成金(外国人就労環境整備)と、有期社員を正社員に転換したときのキャリアアップ助成金。どれも雇う前の計画と申請が前提で、技能実習生・特定技能1号は対象から外れているものがある。
「雇うだけで72万円」は誤り。実在するのは、計画と申請が前提の助成金。

まず要点だけ

「雇うと72万円」は誤り雇うだけでもらえる助成金はない
環境を整えた事業主に定額で助成就労環境整備助成コース=1措置20万円・上限80万円(令和8年度)
事前の計画・申請が前提正社員転換のキャリアアップ助成金なども同じ
実習生・特定技能1号は正社員化コース対象外賃上げのコースや業務改善助成金は使える

① 「雇うだけで72万円」はウソ

まず大前提です。「外国人を1人雇うだけで、自動的に72万円の助成金がもらえる」という制度は存在しません。これはSNSで広まったデマで、報道の取材に対して厚生労働省も「外国人を採用すると1人に対して72万円の助成金がもらえるという制度は存在しません」とコメントしています。実在する企業に対して、この誤解をもとに不買運動を呼びかける投稿まで出て、風評被害になった例もあります。

ウワサ(誤り)

「外国人を雇うだけで、会社に72万円が入る」「日本人より外国人を雇った方が」——こうした投稿が拡散していますが、そんな制度はありません

事実

実在するのは、条件を満たして申請した会社が、環境整備・正社員転換・賃上げなどの取り組みに対してあとから助成される制度。雇用そのものへの“ごほうび”ではありません

※ 出典:女性自身(2025年8月2日配信)の取材に対する厚生労働省のコメント。なお、厚生労働省がこのウワサについて公式文書で見解を示したものは確認できませんでした。

② “72万円”の火元になった本物の制度

「72万円」という数字には、もとになった本物の助成金があります。それが人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)です。これは「外国人を雇ったらもらえる報酬」ではなく、外国人が安心して働けるように職場の環境を整え、定着に取り組んだ会社に対して、あとから助成する制度です。

改正前のこの助成金は「支給対象経費の2/3・上限72万円」(賃金要件を満たした場合。満たさない場合は1/2・上限57万円)でした。この「上限72万円」が、「72万円」という数字のもとになったと見られます。令和7年度からは、かかった経費の割合ではなく1措置20万円・上限80万円の定額制に変わり、令和8年度も同じです。

就労環境を整えて定着に取り組む事業主へ1措置20万円・上限80万円(令和7年度から定額制。令和8年度も同額)
経費の支払いは要件ではない定額制なので、通訳費などをいくら払ったかは問われない
対象=雇用保険に入っている外国人技能実習生も対象。特別永住者・「外交」「公用」は除く
外国人を1人でも雇っていれば計画を出せる雇う前(まだ外国人がいない段階)は提出できない

受給するには、認定を受けた就労環境整備計画にもとづいて、次の取り組みを新たに導入・実施する必要があります。

就業規則を母国語に訳すだけでは0円。必須の雇用労務責任者の選任と就業規則等の多言語化に、選択の措置を1つ以上加えてはじめて対象。3つで60万円、4つで上限80万円。
1措置20万円。5つ全部そろえても上限は80万円です。
必須:雇用労務責任者の選任事業所ごとに社内の人を1人。常勤・専任でなくてよく、人事課長などの兼任で可・資格要件なし(適任者がいなければ事業主・役員も可)
必須:就業規則等の多言語化本人が理解できる言語(母国語・英語など)か、やさしい日本語で。労働条件通知書・雇用契約書でも可
特定技能の事業所は「苦情・相談体制」が対象外法令上の義務のため。一時帰国休暇かマニュアル・標識の多言語化を選ぶ
監理団体の相談体制は数えない会社自身が新たに整えた体制でないと対象外
外国人の離職率15%以下措置実施日の翌日から6か月。外国人2〜10人なら離職者1人以下(在留期間満了の帰国は含めない)。計画期間の前6か月から外国人の解雇もNG
責任者講習を受けると早く申請できる「外国人労働者雇用労務責任者講習」を受けると離職率の確認が省かれ、措置実施の翌日から2か月以内に申請できる(受講は任意)

選択の2つ(一時帰国休暇・マニュアルと標識)で実際にやること

一時帰国の休暇制度:就業規則か労働協約に、年1回以上・連続5日以上の有給の特別休暇を新しく定める。年次有給休暇とは別枠で、年休を使わせたり年休と足して5日にしたりするのは不可。所定休日も数えない。計画期間中に1人は実際に取る必要があり、会社は毎年その分の給料を払う。社内マニュアル・標識の多言語化:安全衛生マニュアル、現場の標識、寄宿舎規則、動画教材、ハラスメント防止の手引き、労使協定、福利厚生の案内など、よく使うものを本人がわかる言語に訳して周知する。掲示した標識の写真などを証拠に残す。計画を出す前の発注・支払いや、前から訳してある物は対象外。
標識のベトナム語は表示例です。
  1. 計画を出す措置を始める前に
  2. 計画の認定労働局
  3. 措置を導入必須2つ+1つ以上
  4. 6か月の定着離職率15%以下
  5. 支給申請ここではじめて支給

※ 出典:厚生労働省「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」改正前パンフレット令和8年度パンフレット令和8年度Q&A(問2・問24〜問34)・支給要領。金額・要件は年度ごとに改正されるため、申請前に必ず最新のパンフレットと労働局でご確認ください。

③ 受け入れ企業が実際に狙える助成金

では、外国人を雇う会社が現実的に使える助成金にはどんなものがあるのか。代表的なものを並べます。金額や要件は年度ごとに変わるので、めやすとして見てください。

助成金どんなとき金額のめやす(令和8年度)
人材確保等支援助成金
(外国人労働者就労環境整備助成コース)
外国人が働きやすい環境(多言語化・相談体制など)を新たに整え、定着に取り組んだとき1措置20万円・上限80万円
キャリアアップ助成金
(正社員化コース)
有期・無期雇用の社員を正社員に転換したとき(技能実習・特定技能1号は対象外→④)中小・1人あたり:有期→正規 80万円(重点支援対象者)/40万円、無期→正規 40万円/20万円
キャリアアップ助成金
(賃金規定等改定コース)
有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定したとき(技能実習生・特定技能1号も対象)中小・1人あたり:3%以上4万円/4%以上5万円/5%以上6.5万円/6%以上7万円。昇給制度の新設で1事業所+20万円
キャリアアップ助成金
(賃金規定等共通化コース)
有期雇用労働者等と正社員に共通の賃金規定等を新たに設けたとき中小・1事業所60万円
人材開発支援助成金従業員に職業訓練を計画的に行ったとき(法令で義務付けられた講習や、日常会話レベルの日本語講習は対象外)訓練経費・賃金の一部
業務改善助成金事業場内最低賃金を50円・70円・90円以上引き上げ、生産性向上の設備投資等を行ったとき(賃上げの対象は雇用保険に入っている労働者。技能実習生も除かれていない)設備投資等の費用×4/5(事業場内最低賃金1,050円未満)または3/4(1,050円以上)。例:50円コース・2〜3人で上限40万円(事業場規模30人未満は70万円)、90円コース・10人以上で上限600万円
自治体独自の補助金都道府県・市区町村が、外国人材の採用・定着・住居などを独自に支援(対象は自治体ごとに違う→⑤)自治体により異なる
ハローワーク紹介が条件の助成金もある特定求職者雇用開発助成金など。監理団体・登録支援機関ルートの受け入れは通常あてはまらない
業務改善助成金は申請期間が短い令和8年9月1日〜地域別最低賃金の発効日前日と11月30日の早いほう
交付決定の前に設備を入れない決定前に導入・契約した設備は対象外になる
業務改善助成金は予算の範囲内で交付受付が早めに締め切られることもある
訓練なら人材開発支援助成金法定の特別教育や日常会話レベルの日本語講習は対象外

※ 出典:厚生労働省 キャリアアップ助成金パンフレット(令和8年度)人材開発支援助成金パンフレット(令和8年8月)同Q&A(問27・問28)・業務改善助成金(令和8年度)。金額は中小企業の場合のめやすです。

④ 在留資格別「使える/使えない」早見表

ここが受け入れ企業にとって一番のポイントです。同じ「外国人」でも、在留資格によって使える助成金が変わります。とくにキャリアアップ助成金の正社員化コースは、帰国が前提の技能実習・特定技能1号では使えません。一方で、同じキャリアアップ助成金でも賃金規定等改定コースなど、正社員化以外のコースは技能実習生・特定技能1号も対象です。

在留資格就労環境整備
助成コース
キャリアアップ
(正社員化)
キャリアアップ
(賃金規定等改定)
人材開発支援
(訓練)
技能実習
雇用保険の被保険者なら対象
×
「帰国することが前提の制度であるため」

OJTを含む訓練は対象外。Off-JT中心なら対象になり得る
特定技能1号
「苦情・相談体制」は措置に数えない
×
「帰国が前提となっているため(在留期間5年<更新不可>の制限あり)」
特定技能2号
有期から正社員化しても対象(通算5年超の有期は無期扱いで額が下がる)
技術・人文知識・国際業務など(就労目的の在留資格)
育成就労
(2027年〜予定)
要確認
制度開始後の取扱いを確認
要確認要確認要確認

※ スマートフォンでは表を横にスクロールできます。

実習生・特定技能1号キャリアアップ助成金の正社員化コースは使えない
賃上げのコースは実習生もOK賃金規定等改定・共通化コースは技能実習・特定技能1号も対象
特定技能2号・技人国など正社員化コースの対象。通算5年超の有期は無期とみなされる
実習生の訓練はOff-JT中心でOJTを含む訓練(認定実習併用職業訓練・有期実習型訓練)は対象外

※ 出典:厚生労働省 キャリアアップ助成金Q&A(令和8年7月29日版) 共通Q-6、人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)Q&A 問2・問25、人材開発支援助成金Q&A 問27。上表は代表的な取扱いのめやすです。在留資格・契約形態・年度の改正で結論が変わることがあるため、申請前に必ず労働局・社会保険労務士にご確認ください。技能実習から特定技能への移行は 技能実習から特定技能へ移行するには? で解説しています。

⑤ 例:技能実習生を雇っている会社はいくらもらえる?

技能実習生を雇っている会社が取り組みをしたとき、いくらになるかを3つの例で示します。中小企業で、すべての要件を満たした場合の目安です。

技能実習生を雇っている会社がもらえる助成金の例。例1 山口県の建設会社(従業員30人未満)・ベトナム人実習生3名:就労環境整備80万円と業務改善助成金67.5万円で147.5万円。同じ3名の賃上げでキャリアアップ助成金(賃金規定等改定)を重ねてもらうことはできない。例2 介護施設・インドネシア人実習生2名:責任者の選任・就業規則の多言語化・一時帰国休暇で60万円。例3 食品工場・フィリピン人実習生5名:賞与か退職金の制度を新設して40万円。
青=人材確保等支援助成金(就労環境整備)、緑=キャリアアップ助成金、黄=業務改善助成金。例1の業務改善助成金は従業員30人未満の事業場として計算しています。
同じ人の賃上げで2つはもらえない業務改善助成金で賃上げした人は、キャリアアップ(賃金規定等改定)の対象に数えられない
実習生を正社員にしても対象外キャリアアップ助成金の正社員化コースは技能実習生が×(帰国が前提のため)
山口県の外国人材確保定着支援補助金「現在外国人材を就労させていない事業者」が対象。すでに雇っている会社は対象外
福岡県の外国人材受入企業支援補助金技能実習生のみが対象・上限30万円(福岡県内の受け入れ企業向け)

※ 金額は令和8年度の各助成金の額をもとにした試算で、支給を約束するものではありません。出典:就労環境整備助成コースキャリアアップ助成金業務改善助成金Q&A 問21・問22・問47)(厚生労働省)、山口県 外国人材確保定着支援補助金福岡県 外国人材受入企業支援補助金

⑥ もらうまでの流れと注意点

助成金は「申請すればすぐ振り込まれる」ものではありません。多くは「先に計画 → 取り組み → あとから支給(後払い)」という順番です。雇ってから慌てて申請しても間に合わないことが多いので、流れを知っておきましょう。

不正受給不支給・全額返還・企業名の公表
共通要件もある労働保険料の納付、一定期間に会社都合の解雇なし など

⑦ よくある疑問(社労士に頼む?自力?100%もらえる?)

申請は社労士に頼む?それとも自力?

厚生労働省の雇用関係助成金の申請書類の作成・提出代行は、社会保険労務士(社労士)の独占業務です(行政書士や無資格の代行業者に頼むのは社労士法違反になります)。一方で、自社で自分の分を申請するのは“代行”ではないので問題ありません。

相場:着手金3〜10万円+成功報酬10〜20%着手金なしなら成功報酬20〜30%
少額案件はスポットで断られることも顧問契約中の事務所なら付帯で受けてくれることが多い
自力なら書類づくりがハードル計画書・就業規則の多言語化・様式記入・出勤簿・賃金台帳・雇用契約書など

条件さえ合えば、枠の100%もらえる?

雇用関係助成金は、ほかの会社と競う「採択」の仕組みではありません。ただし、次の点に注意が必要です。

① 採択の競争はない審査で要件を満たすと確認されれば支給される仕組み
② 導入した措置の数×20万円上限80万円。1措置だけなら20万円
予算の範囲内での支給年度途中で受付終了もあり得る。業務改善助成金も予算の範囲内で交付

助成金を検討するときのチェック

受け入れ企業が助成金を考えるときの順番をまとめます。

雇うだけでもらえる助成金はない取り組み(環境整備・正社員転換・賃上げ・訓練)ありき
在留資格を確認(④)技能実習・特定技能1号は正社員化コースが対象外
始める前に計画労働局・ハローワークへ。後払いが前提
労務書類を日ごろから整える出勤簿・賃金台帳・雇用契約書・就業規則
金額・要件は毎年変わる最新パンフレットと社労士・労働局で確認

助成金の申請、労務書類はすぐ出せますか?

助成金の審査では、出勤簿・賃金台帳・労働条件通知書といった「日ごろの労務管理の記録」が必ず求められます。AMSTIは外国人材の勤怠・労務書類をまとめて管理するシステム。日々の出勤入力から出勤簿や各種帳簿が整い、いざ申請というときに必要書類をすぐ用意できます。30日間無料(クレジットカード登録は不要)。

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