① 「雇うだけで72万円」はウソ(厚労省も否定)
まず大前提です。「外国人を1人雇うだけで、自動的に72万円の助成金がもらえる」という制度は存在しません。これはSNSで広まったデマで、厚生労働省も「そのような制度はない」とはっきり否定しています。実在する企業に対して、この誤解をもとに不買運動を呼びかける投稿まで出て、風評被害になった例もあります。
「外国人を雇うだけで、会社に72万円が入る」「日本人より外国人を雇った方が得」——こうした投稿が拡散していますが、そんな制度はありません。
実在するのは、条件を満たして申請した会社が、環境整備や正社員転換などの取り組みの費用をあとから一部助成される制度。雇用そのものへの“ごほうび”ではありません。
※ 出典:厚生労働省の公式見解(「外国人を雇うと72万円」という制度は存在しない旨)。報道でも、この言説が誤りであることが確認されています。
② “72万円”の火元になった本物の制度
「72万円」という数字には、もとになった本物の助成金があります。それが人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)です。これは「外国人を雇ったらもらえる報酬」ではなく、外国人が安心して働けるように職場の環境を整えた会社に対して、その費用の一部をあとから助成する制度です。
この助成金の上限額がかつて最大72万円だったこと(令和7年度からは最大80万円に拡充)が、「72万円」という数字のもとになったと見られています。
受給するには、認定を受けた就労環境整備計画にもとづいて、次の取り組みを新たに導入・実施する必要があります。
- 雇用労務責任者の選任(必須)と就業規則等の多言語化(必須)
- これに加えて、苦情・相談体制の整備/一時帰国のための休暇制度/社内マニュアル・標識類の多言語化から1つ以上を選んで導入
- 計画期間の終了後、一定期間が経過した時点で外国人労働者の離職率が15%以下であること(このほか雇用関係助成金の共通要件あり)
多言語化は、外国人労働者の母国語・本人が使う言語、または“やさしい日本語”で記載します。本人が理解できない英語版だけ、では趣旨を満たしません(実習生がベトナム人ならベトナム語など)。対象は就業規則「等」なので、賃金規程などの付随規程も含みます。
※ 出典:厚生労働省「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」(令和7年4月1日版・令和8年4月1日版)。金額・要件は年度ごとに改正されるため、申請前に必ず最新のパンフレットと労働局でご確認ください。
③ 受け入れ企業が実際に狙える助成金
では、外国人を雇う会社が現実的に使える助成金にはどんなものがあるのか。代表的な4つを並べます。金額や要件は年度ごとに変わるので、めやすとして見てください。
| 助成金 | どんなとき | 金額のめやす(令和7年度) |
|---|---|---|
| 人材確保等支援助成金 (外国人労働者就労環境整備助成コース) | 外国人が働きやすい環境(多言語化・相談体制など)を新たに整え、定着に取り組んだとき | 1制度20万円・上限80万円 |
| キャリアアップ助成金 (正社員化コース) | 有期雇用の社員を正社員に転換したとき(外国人も日本人も対象。ただし在留資格による制限あり→④) | 1人あたり40万円〜80万円(中小・対象者により) |
| 人材開発支援助成金 | 従業員に職業訓練を計画的に行ったとき(外国人の訓練も対象になり得る) | 訓練経費・賃金の一部 |
| 自治体独自の補助金 | 都道府県・市区町村が、外国人材の採用・定着・住居などを独自に支援(東京都など) | 自治体により異なる |
④ 在留資格別「使える/使えない」早見表
ここが受け入れ企業にとって一番のポイントです。同じ「外国人」でも、在留資格によって使える助成金が変わります。とくにキャリアアップ助成金(正社員化)は、帰国や有期雇用が前提の在留資格では使えません。
| 在留資格 | 就労環境整備 助成コース | キャリアアップ (正社員化) | 人材開発支援 (訓練) |
|---|---|---|---|
| 技能実習 | ○ 外国人労働者として対象になり得る | × 有期・帰国前提のため対象外 | ○ 訓練は対象になり得る |
| 特定技能1号 | ○ | × 原則として無期雇用ではないため | ○ |
| 特定技能2号 | ○ | ○ 無期雇用なら対象になり得る | ○ |
| 育成就労 (2027年〜予定) | 要確認 制度開始後の取扱いを確認 | 要確認 | 要確認 |
※ 上表は代表的な取扱いのめやすです。在留資格・契約形態・年度の改正で結論が変わることがあるため、申請前に必ず労働局・社会保険労務士にご確認ください。技能実習から特定技能への移行は 技能実習から特定技能へ移行するには? で解説しています。
⑤ もらうまでの流れと注意点
助成金は「申請すればすぐ振り込まれる」ものではありません。多くは「先に計画 → 取り組み → あとから支給(後払い)」という順番です。雇ってから慌てて申請しても間に合わないことが多いので、流れを知っておきましょう。
- 1. 計画の作成・提出(事前)取り組みを始める前に、就労環境整備計画などを作成し、労働局・ハローワークへ提出して認定を受けます。取り組みを始めたあとでは間に合わないのが基本です。
- 2. 取り組みの実施計画にそって、多言語化・相談体制づくり・正社員転換・訓練などを実施し、費用を支払います。出勤・賃金などの記録も残します。
- 3. 支給申請 → 審査 → 支給(後払い)定着(低い離職率)などの要件を満たしたら支給申請。審査を経て、あとから助成金が振り込まれます。
⑥ よくある疑問(社労士に頼む?自力?100%もらえる?)
申請は社労士に頼む?それとも自力?
厚生労働省の雇用関係助成金の申請書類の作成・提出代行は、社会保険労務士(社労士)の独占業務です(行政書士や無資格の代行業者に頼むのは社労士法違反になります)。一方で、自社で自分の分を申請するのは“代行”ではないので問題ありません。
条件さえ合えば、枠の100%もらえる?
大筋はそのとおりですが、2つだけ注意があります。
助成金を検討するときのチェック
受け入れ企業が助成金を考えるときの順番をまとめます。
- 「雇うだけでもらえる」助成金はないと理解する。まず取り組み(環境整備・正社員転換・訓練など)ありき。
- 自社の在留資格を確認(④)。技能実習・特定技能1号は対象外の助成金がある。
- 取り組みを始める前に計画を作り、労働局・ハローワークへ。後払いであることを前提にする。
- 出勤簿・賃金台帳・雇用契約書・就業規則など、審査で必要になる労務書類を日ごろから整えておく。
- 金額・要件は毎年変わるため、最新のパンフレットと社会保険労務士・労働局で確認する。
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